この前ブックオフで、このシリーズ↓を買ってきた。
もうね、いくら読んでも読んでも読み終わらない。
途方もない長さの漫画なら、他にもいろいろある。
でも、たとえば『静かなるドン』全108巻だったら、漫喫に行って朝から夜中まで読み続ければ読み終わるんじゃないか。
『カムイ伝』は文章の脚注が多く、登場人物は途方もなく多く、話が複雑。コマも小さい。
とにかく重くて、とても一日で読み終わるシロモノじゃない。
第一部、第二部、外伝と3つあって、今回初めて読んだのは、第二部と外伝だ。
その結果、思ったこと。
この2つは読まなくてもいい。
第二部は、ふつうの江戸時代漫画で、おもしいけれども必読ってほどじゃない。
外伝は、ふつうの忍者漫画。
もっとおもしろいのはいろいろある。
第一部は違う。
途方もない壮大なスケール。
出てくる数え切れないほどの脇役がみな魅力的。
たんなる人間ドラマを超えて、まさに歴史だ。
こんな漫画は他に読んだことがない。
たとえば、『三国志』だって途方もない人数が登場して、かなりキャラが立ってるけども、あれは軍人ばかりだから幅が狭い。
『カムイ伝』の場合は、百姓、武士、非人、忍者と、いろんな階級が入り乱れており、ドラマを超えて本当に歴史を感じさせる。
俺は漫画を相当読んできたけど、自分が読んだ中で最大の名作はこれだと思う。
手塚治虫の『火の鳥』とくらべても、断然こっちのほうがすごい。
同じ著者の忍者武芸帳 影丸伝 コミック 全8巻完結セット (小学館叢書)
も壮大な歴史ドラマなのだが、わかりやすくエンタメになっていて、ずっと読みやすい。
そのぶん重層的な重さがなく、やはり俺は『カムイ伝』のほうを推したい。
一般的に『カムイ伝』といったら、第一部を指す。
これが日本の漫画史上で最大の名作なのだが、読んでおもしろかったという声を聞いたことがない。
つか、俺の世代で読んだやつに会ったことすらない気がする。
もっと上の世代なんだよね。
1967年に「サンデー毎日」が「いい感じのする日本人」を選んだとき、吉永小百合、宇野重吉、大江健三郎を押さえて、『カムイ伝』著者の白戸三平がダントツの1位になったらしい。
その当時は、国民を代表するヒーローだった。
しかし、1971年に『カムイ伝』第一部の連載が終わったとき、すでに一部のマニアしか読まなくなっていた。
70年安保と全共闘運動の終焉とともに、白土ブームはあっけなく終わってしまったのだ。
それは、『カムイ伝』がマルクス主義の理論漫画とも言えるからだと思う。
俺は過去に20回くらい読んでると思うけど、初めて読んだのは小5のときだった。
日本の歴史モノが異常に好きなガキだったから、食いつくように読んだのだが、当時はただ活劇として読んでいて、全部は理解できていなかった。
そこに込められている唯物史観まで理解できるようになったのは、大学2年くらいのときだ。
唯物史観(ゆいぶつしかん)とは、漢字の意味の通り「ただ物で歴史を観る」ということ。
歴史とは、ヒーローが作り出すものじゃなく、貴族とか武士とか支配階級の名前が変わっても、そんなのは表面的なことにすぎない。
歴史を動かしたヒーローのように見える人も、歴史の大きな構造の中で、その役割を果たしただけ。
歴史を決めるのは、物であって、つまり食い物。
食い物を生産する技術だ。
その時代ごとに、どれだけ食い物を生産できるかという技術的な限界があって、その枠内で、支配階級と支配される階級が争っている。
技術が進むと、支配される側がそのぶん勝って、また新しい形に移る。
そうやって歴史は進んできた。
これがマルクス主義の歴史観で、それを唯物史観という。
日本に歴史認識としては、戦前は皇国史観で、天皇家を中心に歴史は動いてきたとされ、ようするに神話主義だった。
それが敗戦によって崩れ去り、唯物史観が大流行の時代になった。
唯物史観の欠点は、退屈なこと。
そりゃヒーロー主義のほうがおもしろい。
日本が豊かになると、唯物史観の時代は去り、単純にヒーロー主義になった。
以後は、歴史をどう見るかなんて、一部の歴史マニアしか興味を持たないテーマになった。
それ以前は、難しい話であるにもかかわらず、国民的なテーマだったんだよね。
歴史マニアの狭い世界の話になるけど、1980年代になると、中世史ブームというのがあって、単純な支配‐被支配という関係ではなく、庶民の側にもかなり自由があった側面がつぎつぎと明らかにされてゆく。
今もその流れが続いているといっていいのかも。
そういう目で見ると、『カムイ伝』は古臭いということもできる。
実際、あらを見つけることは全然難しくない。
それでも、本当に本気で描いた物語は、単純な物語の構造には収まらず、かならず破綻すると思うので、やはり名作だという評価は揺らがないなぁ。
壮大なる破綻と挫折の物語だ。
あまりにガキのころから読んできたから、もう影響を受けたかどうか自分では判断つかないけど、たぶんすごく大きな影響を受けている。
たとえば、麻雀の強さを語るとき、俺は印象じゃなく、技術ですらなく、数字を重視する。
どれだけ勝ったかという数字だ。
記憶に残るヒーローよりも、記録を残したヒーロー主義。
「印象じゃなく事実を語れよ」といつも思っているから、自分で何かを語るときに、できるだけ事実を提示する。
印象論だけだと、ふわふわしてしまう。
たとえば、「小島武夫の華麗なる逆転優勝」みたいな記事を読んだときにも、で、その人の生涯通算平均順位はいくつなの?と思ってしまうわけだ。
そして、結果を残してきたのは、灘麻太郎さんだと知ったりする。
てな具合に。
事実だけでは心は動かないから、生きた実感も必要なんだけどね。
それがないと、データ文章にすぎない。
でも、事実に欠けた文章を読んでも、保留としか言えねーなーという読後感が残る。
あるいは、たとえば日本の麻雀史上で最大の功労者は誰かという問題。
阿佐田哲也という名前を挙げる人が多いと思う。
俺は異論があるとまではいえないけど、そういうヒーローよりも、空閑緑(くがみどり)とか野口恭一郎のような、大きな構造を作り出した人を偉大だと思う。
てな具合に、影響を受けたんだか、もともと近いんだかわからないけど、似たような考え方をする。
まぁいいや、そんな話は。
とにかくね、『カムイ伝』第一部は偉大なる名作だと本当に思うので、気楽に読める話じゃないんだけど、おすすめしたいわ。
第二部と外伝はどーでもいい。
俺はこれを読まなかった人生は考えられない。
どーせ、過去もそうだったように、こんなこと書いても、誰一人読まないとは思うが( ̄w ̄)プッ
萌えというエンジンが積まれていないと、読み進められない人も多いと思うし。
最近の歴史漫画では、キングダム 1~最新巻(ヤングジャンプコミックス) [マーケットプレイス コミックセット]
などおもしろい。
でもね、どうしてもガキっぽいし、おもしろいと思うのは俺の気分にすぎない。
これを読んだほうが人生が豊かになるよ、というほどの作品はまずないと思う。
そういう意味で、『カムイ伝』は稀有だわ。
今の快感か生涯の豊かさか的な意味で。
『カムイ伝』第一部についての、もっとまっとうな紹介は松岡正剛の千夜一夜 1139夜 カムイ伝を。
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