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2007年9月26日 (水)

【麻雀】麻雀は創造的か?

世界コンピュータ将棋選手権という大会がある。将棋ソフトの強弱を競う大会で、年1回が18回も行われている歴史を持つ。

参加するのは、改良に改良を重ねられてきたソフトばかりだが、2006年に新たに登場して、彗星のように優勝したソフトがある。その名をボナンザ。他のソフトはみな将棋の有段者が工夫しまくっているのだが、ボナンザは開発者が将棋はまったくの素人。ルールくらいしか知らないという。

開発者の保木さんは全幅検索という新しいシステムを採用した。全幅検索というのは、その局面でのすべての差し手を片っ端から読むという方法だ。これまでのソフトは、有力な手を2~3に絞って読むという、人間と同じようなシステムだった。しかし、ボナンザの開発者は、チェスソフトはみな全幅検索なので、それで上手くいかないはずないと思ったという。

その結果どうなったか。ボナンザは初出場で優勝を飾ったし、対戦したプロ棋士によると、人間らしい勝負術を使うようになった。

これまでのソフトは、その局面でベストの手を探していた。しかしボナンザは、プロ棋士と同じように、相手がもっとも嫌がる手を指す。自分がベストの手を指すよりも、相手が嫌がる手を指したほうが、相手のミスを呼びやすく、勝ちにつながりやすい。

ボナンザを徹底的に研究した渡辺明竜王によると、人間らしい勝負術を使うし、ずっと対戦していると、ひとつの知性と対戦している気になるという。

しかし開発者の保木さんは、ボナンザにそんな思考はないから、それは棋譜を大量に記憶させて学習させたことからくる傾向じゃないかという。理由はわからないのだ。少なくとも、人間らしい思考などではない。これまでのソフトはコンピュータをプロ棋士に近づけることを目標にしていたが、ストレートに強くしようとすれば、別の方法があると示したわけだ。その結果、不思議にも人間性らしさのようなものが現れることになった。もちろんそれは、人間が勝手に人間らしさだと思っているだけだ。陽炎を幽霊だと思うようなことにすぎない。

将棋の戦術というものは、30年くらい前から急速に人間らしさを失ってきた。それまでは、「新手一生」といって、新しい手を“発見”することが最大の価値とされた。しかし今では新しい手を見つけても、すぐ情報が伝わるから1勝にしかならない。「新手一生」から「新手1勝」へと大幅に格下げされた。

新手を発見するよりも、実戦でいかにミスなく正確に指し続けられるかが現実には大きい。100点の手を指すことよりも、99点の手をどれだけ続けられるか。つまり、この30年あまりの変化として、新手を見つけて勝つというプラス思考から、どれだけミスを減らせるかというマイナス思考に転じた。

同じことは最近10年あまりの麻雀の戦術にもいえる。名手を出すよりも、どれだけ正確にミスせず打てるか。それが現代的な戦術の発想だ。「ひっかけ」や「忍耐」やダマテンなど、かつてあった人間臭さは消え去り、すべてが損得で計測されるようになった。

すなわち、将棋にしても、麻雀にしても、ゲームは創造性を発揮するキャンバスではなくなったのだ。将棋が強いのは将棋が強いことでしかないし、麻雀が強いのは麻雀が強いことでしかない。もはや人間力の勝負ではないし、競っているのは創造性ではなく精密さだ。

10年ほど前だと思うが、娘1号が習い事として歌の教室に通ってるといったとき、ぼくの父は「情操教育もいいよな」といった。歌が情操教育? 考えたこともない言葉にびっくりした。歌だって楽器だって、音楽は音楽。情操とは何の関係もない。それがぼくの発想だけど、情操を養うには音楽がいいと昔はいわれたらしい。

あらゆる分野で技術が進んだ結果、そこから人間臭さが消えてしまった。年配の人からすれば、情緒のないということになろうが、これは技術が進んだ結果でしかない。将棋だって麻雀だって、30年前の人と対戦したら勝つのは当たり前。神話をはぎとってしまえば、昔は本当にレベルが低かった。人間らしさの幻想という曇ったガラスを通して勝負を見ていた。

おそらく、その結果なのだろう。オカルチックなものが増えているのは。

大半の人間は合理だけでは納得しない。だから、科学の名を借りた各種オカルト(健康食品とか)や自己啓発、風水など、オカルチックなものが増えているのだ。将棋や麻雀や音楽など、個別の領域から人間臭さが消えてしまった結果として、オカルチックな領域が新たに誕生している。

現在では将棋にしろ麻雀にしろ、科学というのが大袈裟なら、内部論理をどこまで押し進められるかを競っている。だから、麻雀漫画をドラマとして成立させることも難しくなったのだ。

なお、あくまで昔と比べた相対的な問題であって、創造性が皆無になったと言ってるわけじゃないので念のため。

また、麻雀はそんなふうになってねーよという方も多いでしょうけど、この傾向は一部から始まって確実に全体に波及しつつあるので、まあ時間の問題だと思います。

※参考文献『ボナンザvs勝負脳』(角川one21新書)

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