【教育】安倍教育改革3
年が明けても「日刊ゲンダイ」の連載から。昨年秋に掲載されたもの。
投稿欄に続きへのリクエストがあり、ビックリしましたです。
安倍首相は首相になる直前、就任したあかつきに行う「教育再生」の案として、びっくりするアイデアを出した。国公立大学の入学時期を4月から9月に変更し、高校卒業から大学入学までの半年間は、ボランティア活動を義務付けるというのだ。
自分でもマズイと思ったのか最近では言わなくなってしまったが、この改革案がいかに愚策であるか説明しよう。
注)別にマズイと思ったわけではないようで、最近でも秋入学は検討課題になってます。
これは実質的な国公立大学の学費値上げである。ボランティアは自分でするからボランティアなのであって、義務付けられたら強制労働にすぎない。入学前に半年間の強制労働が課されるとすれば、卒業するのが半年遅れ、それがそのまま生涯の逸失賃金となる。
国公立大学に入学する者だけ、生涯賃金から半年分を差し出せということになったら、おそらく文系なら実質的には私立大学に進んだほうが安くつく。つまり、現状でも大学進学の費用は先進国のなかでもとんでもなく高いのに、さらに値上げすることになる。
最近では、親から学費だけ出してもらい、生活費は自分でアルバイトして賄っている学生は決して珍しくない。そういった者は国公立大学に入れないことになる。また、住居費負担で考えると、子供が自宅から国公立大学に通える都市部の住人と、そうでない地域の住人との教育環境格差はさらに広がる。
高校では公立はしばりがきついため、進学実績では私立が有利だった。それと同じような公私格差が大学にも導入されることになってしまう。
安倍首相は就任してからはボランティアを課すと口にしなくなった。保守右派だった首相前に比べて、バランス派を意識しているように見える。しかし石原慎太郎都知事にはそんな配慮はないから、東京都では来年度からすべての公立高校で「奉仕」が必修化される。実施する学年は学校に任され、1単位(35単位時間)以上とされている。こんな現実を見ると、アイデアを引っ込めた安倍首相を讃えたくなる。レベルの低い二者択一だが……。
安倍首相がしばしば口にする愛国心も、学校教育で注入するようなものではない。国民が外国に逃げ出しているかどうか、それが愛国心をはかる最大の指標だろう。現状では金持ちが資産ごと逃げ出すケースが目につくくらいだから、サッカーのワールドカップで日本チームを応援する一般庶民は、愛国心に満ちているといって過言ではない。
今すべきは、学費を上げることではなく下げることだ。前途有為な若者たちのために学費を大幅に値下げする。これほど愛国心を感じさせる教育政策が他にあるだろうか。(つづく)
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コメント
リクエストに応えていただき、ありがとうございます。
「奉仕活動必修化」は以前教育国民改革会議で曽野綾子さんが提言されていたのを記憶しています。
私は9月入学には反対ですが、奉仕活動のような体験は学校現場でどんどん取り入れていくべきだと思います。独立した科目にすると時間がなくなるので、総合的な学習の時間を使えばよいと思います。成績評価、その有無に関しては難しいですが・・・。
「強制すればボランティアではなくなる」というのはそのとおりだと思いますが、まずは大人、学校がそのような体験の機会を提供してあげるのも必要ではないでしょうか。
また地域のお年寄りの方々との交流のような形でもよいと思います。これは福地さんがおっしゃる「いじめ対策のひとつとして、学校の風通しをよくする」事にも役立つのではないでしょうか。
投稿: のり | 2007年1月29日 (月) 19時26分
>のりさん
下の娘は自閉症なのですが、最近現場に若いボランティアの人をチラホラ見かけます。きっかけは何であっても現場に来ると認識は変わったりしますから、そういう効果はあるんですね。
…とは思うのですが、それをシステム化するのがいいとは、やはり思えないのですね。
投稿: 福地 | 2007年1月31日 (水) 18時39分