【教育】安倍教育改革4
いよいよ「日刊ゲンダイ」の連載も最終回。
昨年秋に書いたもので、バウチャー制についての認識などその後新しくなりましたが、根本は変わりません。
安倍政権が誕生して間もない10月末、富山県の高校で発覚してアッという間に全国に飛び火した未履修問題。その後、全国の1割もの高校が該当すると判明した。
この問題の原因は、高校で学ぶ内容が増えすぎたことにある。80年代以降、小中学校で学ぶ内容を減らして、片っ端から高校に送り込んだため、高校はパンクした。けれども、大学入試で求められる水準は下がらなかったから、進学実績を上げたい高校は学習指導要領を守りきれなかったのである。
もう一つの要因として、学校で学ぶ内容と受験で求められる学力がダブルスタンダード化している状況がある。受験対策の比重が高まるのにともなって二重構造が生まれ、教育制度上の歪みとなっているのだ。この問題に対して、伊吹文科相は防戦一方だ。すぐには抜本的な対策は取れそうもない。大学入試改革といっても、今の入試が手抜きというわけではないから、十分検討した上でないと事態は悪化するだけである。未履修は制度としての根幹から来ている問題なのだ。
それでは、安倍政権が教育改革の切り札として掲げる教員免許更新制と教育バウチャー制はどうか。教員免許更新制とは、教員免許は10年ごとに更新しなければならないというもので、不適格教員の排除を目的としている。だが、これは間違いなくマイナスに作用する。たしかに不適格教員がいるのは困るが、わずか数%にすぎない不適格教員を排除するために、全員に研修を課すわけだから、教員はますます疲弊する。いま、学校を飛び回っている書類の量は膨大なもので、先生たちは目の前の子どもと関係ない作業に圧倒的な時間を取られている。必要なのは、むしろ研修や調査を減らすことなのだ。
教育バウチャー制はどうか。これは家庭にバウチャー(金券)が配られ、公立でも私立でも自由に選んで授業料として使える制度だ。非常に大胆な制度変更で、専門家でもその長所と短所について定説はない。現状でわかる範囲でいうなら、これも期待できない。親にとって、子どもの教育環境を選ぶことは重要になっているが、だからといって、すべてを自由選択に任せ流動化させたときに、全体の質は上がるだろうか。公教育は国としてのインフラであって、水道や道路のようなものだ。経済的に余裕がある人もない人も同じように自由競争に任せたら、結果として、豊かな人々が美味しい水を飲み、広い道路を独占する傾向が強まるだけだろう。
教育改革を最大の課題とする安倍政権の姿勢は評価できる。しかし、どの案にも疑問符がつき、貧困家庭が増える一方の現状ではその効果は空しいのである。(おわり)
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コメント
「教員免許更新制によってゆとりが奪われる」というご指摘はそのとおりだと思います。そもそも本当に問題がある教師は数回の研修などで改善されるとは思いません。
私はやはり、問題がある人には始めから教育現場にいてほしくないです。だから、大学における教育課程や採用試験を変えるべきだと思います。また、最近「教師塾」も増えていますが、これもよい風潮だと考えます。
投稿: のり | 2007年2月 1日 (木) 18時03分
うーん、私の感覚だと「君が代の強制に反対して、君が代を唄わないことを生徒に"強制"」したり、平日に授業を投げ出して国会前に座り込みに行くような教師は充分不適格で、それは数%程度には思えないですね。
それと、教師になってから職場の日教組教師などに染まってしまう場合もあると思うので、基本的に更新制に賛成です。
10年に一度ならそう負担になるとも思えませんし。
"目の前の子どもと関係ない作業に圧倒的な時間を取られている"現状を改革するのが必要という意見は賛成ですが、それを理由に現在の状況を追認する気にはなれないです。
投稿: スカイドン | 2007年2月 3日 (土) 20時00分
>のりさん
今の教育現場の問題を見る限り、入り口を絞るよりも、現場での実践で結果を見ていくほうがいいと思うのですが、それをするのが管理職だと、ただ体制に従わないだけで排除されてしまいそうで、ますますサラリーマン教師化が進みそうです。ヤバイですね。
>スカイドンさん
政治系の不適格教師がどれくらいいるかって謎ですよね。
この問題に限りませんが、割合のわからないこの種の問題の、実際のところを少しでも明らかにしていきたいですね!
投稿: 福地 | 2007年2月14日 (水) 07時54分